コラム

麻の衣「忠兵衛」。それはある晴れた日の屋上ではじまった。

By 2021年3月1日3月 8th, 2021No Comments

ないなら、つくればいい。

2006年、春も終わりの晴れた日曜日に、屋上でビールを飲んでいました。
ちょうどその少し前に、サステナブルな暮らしを提案するイベントで「hemp」の存在を知って、興味を持った頃。
ヘンプの服を探してみたけれど、着たい服が出回っていなくて、そんな話をしているうちに、つくればいいんじゃないか、と盛り上がって。
それが忠兵衛のはじまりです。

利用価値が高いのに、悪者?

ヘンプは縄文遺跡でも発掘され、古代から日本の暮らしになくてはならない植物でした。
強靭な繊維は、紐にしたり、布にしたり。
種は食用に、茎は建材としても利用できます。
とはいえ、ヘンプは大麻。
戦後の日本の常識だと、悪者です。
それでも、横綱の化粧まわしや、つづみの紐、神社のご神事に使われるなど、日本文化にとって欠かせない素材でもあります。
人の使い方次第で、犯罪とされたり、神聖な依り代となったり。
そんな一筋縄ではいかない存在がおもしろい、この存在をたくさんの人に知ってほしい。と、忠兵衛の一歩を踏み出しました。

エコロジカルなヘンプ。欧米からの逆輸入。

日本でエコロジカルな繊維といえば、オーガニックコットンが筆頭に上がるでしょう。
でも欧米ではヘンプもしっかり肩を並べています。
成長が早く、質のいい繊維が取れる優秀な植物です。
ナチュラルな暮らしを実践している人がヘンプの服が好きなのは、素材の心地よさだけでなく、ヘンプを選ぶことが地球環境にとって大切な選択だから。
日本古来の植物の素晴らしさをヨーロッパから教えてもらい、逆輸入的にヘンプの人気がいま高まっています。

ミシン踏んだことなし。ただただヘンプの服が着たかった。

想い先行ではじまった忠兵衛。
アパレル業界の経験はまったくなかったが、とにかくスタート。
服は好きでした。
でも服をデザインしたりミシン踏んだりの経験はなし。
できる人に教えてもらいながら、つくりははじめました。
はじめてみると、ヘンプ100%の生地そのものが市場にあまり出回っていないという事実に遭遇。
紆余曲折を経て、いまではヘンプ100%を生地屋さんに織ってもらっています。
「ないなら、つくればいい。」
はじまりの想いは、ずっと続きます。

気がついたら、自然に寄り添う暮らしに。

忠兵衛をはじめたのと、東京を出たのは同時期。
上場企業に勤めていたのですが、911をきっかけに、環境のことなどに興味が出てきて。
東京はもういいかな、自然の中で暮らす方がかっこいいなと思って、2007年に東京を卒業。
それまではバリバリの都会っ子でした。
いまでも東京は嫌いではないです。
都会ならではのいいところがたくさんある。
それでも拠点はやはり自然の中がいいと感じます。
ほんとうに、世界が美しい。
山の稜線とか空の色とか、鳥の声とか。
それと光が違います。
透明な空気の圧倒的な存在感。
毎日それに抱かれている実感は、大げさかもしれませんが、いのちの悦びです。
毎朝、朝日に柏手を打ちます、あたりまえに。
都会と自然。
対極にあるように見えていたものが、実はひとつだった、という感覚。
あの晴れた日の東京の屋上も、この八ヶ岳の清々しい風も、すべてがキラリと忠兵衛です。