ヘンプが茎から布になるまで

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一本の茎から、繊維、そして布へ。
ヘンプの服を見ていると、この布がもともとは植物だったことを忘れそうになります。
一本の糸も、一枚の布も、そのはじまりをたどれば、畑に育つヘンプです。
では、その植物のどこが、私たちの着ている「衣」になるのでしょう。
葉でしょうか。
茎でしょうか。
それとも、種でしょうか。
答えは、茎です。
ただし、茎から繊維を取り出せば、そのまま布になるわけではありません。
植物が衣になるまでには、いくつもの加工の工程があります。
今回は一本のヘンプの茎から、布になるまでを見てみます。
衣になるのは、茎の外側にある繊維
ヘンプは、まっすぐ上へ伸びる植物です。
その茎を輪切りにしてみると、いくつもの異なる組織からできていることがわかります。
衣料用の繊維として使われるのは、主に茎の外側近くにある『靭皮繊維(じんぴせんい)』と呼ばれる部分です。
「靭」という字には、強く、しなやかという意味があります。
その名のとおり、靭皮繊維は細長く、丈夫です。
植物が成長し、自らの身体を支えていくためにつくられた構造を、人は取り出し、繊維として利用してきました。
私たちがヘンプの衣に感じる丈夫さ。その源は、まず、この植物の茎にあります。
茎の内側にも、役割がある
繊維として利用される靭皮部分のさらに内側には、硬く木質化した部分があります。
英語では「hurd」や「shiv」と呼ばれます。
衣料用の繊維とは性質が異なりますが、建材や断熱材、敷料などに利用されています。
近年知られるようになった「ヘンプクリート」にも、この木質部分が使われます。
さらに種子は食品やオイルなどに利用されます。
衣になるのはヘンプという植物の一部分。
けれど、一本の植物を見渡してみると、それぞれの部分に異なる用途があります。

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植物から「衣料用の繊維」へ
ここからが、とても大切なところです。
収穫したヘンプの茎から、長い靭皮繊維を取り出します。
しかし、取り出したばかりの繊維が、そのまま私たちが着ている服の糸になるわけではありません。
植物の茎には、主成分となるセルロースのほか、ペクチン、ヘミセルロース、リグニン、ワックス類など、さまざまな成分が含まれています。
そこで、繊維を分離し、衣料用として扱いやすい状態へ整えていく必要があります。
その工程のひとつが、『レッティング(retting)』です。
伝統的には、収穫した茎を畑に置き、露や雨、微生物などの働きを利用する方法や、水に浸す方法などが行われてきました。
その後さらに、繊維を取り出し、精練し、紡績できる状態へ整えていきます。
そして現代では、その加工方法も一つではありません。
微生物の働きを利用する方法。
酵素を利用する方法。
機械的に処理する方法。
アルカリなどを使用する化学的な処理。
実際の繊維づくりでは、これらを組み合わせることもあります。
どこまで処理するかによって、繊維の細さややわらかさ、紡ぎやすさ、そして最終的な布の風合いも変わります。
「天然素材」という言葉について
ここで、一つお伝えしておきたいことがあります。
ヘンプは、植物から得られる天然繊維です。
けれど、
「天然繊維であること」と、
「化学的な処理を一切していないこと」は、同じではありません。
これはヘンプに限ったことではありません。
植物から採れた繊維であっても、それを衣料として使える糸や布にするまでには、さまざまな加工が行われます。
精練だけでなく、その後の漂白、染色、柔軟加工、仕上げなども含め、どのような工程を経るかは、生地によって異なります。
ですから、「ヘンプ100%」という表示は、繊維の組成がヘンプ100%であることを示すものであって、「無漂白」「無染色」「化学的な加工をしていない」という意味ではありません。
ここは、ヘンプという素材を選ぶうえで、とても大切な違いだと私たちは考えています。
同じ「ヘンプ100%」でも、布は違う
店頭でいろいろなヘンプ生地に触れると、
「これもヘンプ100%なの?」
と思うほど、風合いが違うことがあります。
粗く力強いもの。
やわらかなもの。
薄く軽やかなもの。
光沢を感じるもの。
その違いは、植物そのものだけから生まれるわけではありません。
原料となる繊維の状態、繊維を取り出す方法、精練、紡績、織り方、染色、仕上げ。
さまざまな要素が重なって、一枚の布の個性になります。
つまり私たちが触れているのは、
植物としてのヘンプと、人の技術が出会って生まれた布。
そう考えると、「ヘンプだからこういう布」とひとくくりにはできないことがわかります。
「自然のものだから」で終わらせない
ヘンプについて語るとき、
「天然だから」
「植物だから」
「環境にやさしいから」
という言葉だけで説明してしまうのは、少しもったいないように思います。
植物が育つところから、一枚の衣になるまで。
その間には、人の手があり、機械があり、技術があり、加工があります。
そして、加工には水やエネルギーを使うものもあれば、化学的な処理を伴うものもあります。
だからこそ、
何からできているのか。
そして、どうやってつくられているのか。
その両方を見ることが、素材を知ることにつながります。
ヘンプのよさを伝えるために、都合のよい部分だけを見るのではなく、その背景まで知っていく。
このシリーズでは、そんな姿勢でヘンプという素材を見ていきたいと思います。
一本の植物から、一枚の衣へ
畑に立つ一本のヘンプ。
その茎から繊維を取り出し、整え、糸を紡ぎ、布をつくる。
植物そのものを、そのまま身にまとっているわけではありません。
けれど、その衣の原点にあるのは、確かに一本の植物です。
植物 → 繊維 → 糸 → 布 → 衣。
その間にある工程まで知ることで、ヘンプという素材は、より立体的に見えてきます。
「自然素材だから」という一言では語りきれない。
そこに、ヘンプを知るおもしろさがあります。
次回
第3話「なぜ、ヘンプは丈夫なのか。」
ヘンプの茎を支えていた、細く長い繊維。
その強さは、どこから生まれるのでしょう。
次回はセルロースや繊維構造から、ヘンプの「丈夫さ」をもう少し深く見ていきます。
