コラム

ヘンプの服は、植物のどこからできている?

By 2026年8月30日No Comments

ヘンプが茎から布になるまで

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一本の茎から、繊維、そして布へ。

ヘンプの服を見ていると、この布がもともとは植物だったことを忘れそうになります。

一本の糸も、一枚の布も、そのはじまりをたどれば、畑に育つヘンプです。

では、その植物のどこが、私たちの着ている「衣」になるのでしょう。

葉でしょうか。
茎でしょうか。
それとも、種でしょうか。

答えは、です。

ただし、茎から繊維を取り出せば、そのまま布になるわけではありません。

植物が衣になるまでには、いくつもの加工の工程があります。

今回は一本のヘンプの茎から、布になるまでを見てみます。

衣になるのは、茎の外側にある繊維

ヘンプは、まっすぐ上へ伸びる植物です。

その茎を輪切りにしてみると、いくつもの異なる組織からできていることがわかります。

衣料用の繊維として使われるのは、主に茎の外側近くにある『靭皮繊維(じんぴせんい)』と呼ばれる部分です。

「靭」という字には、強く、しなやかという意味があります。

その名のとおり、靭皮繊維は細長く、丈夫です。

植物が成長し、自らの身体を支えていくためにつくられた構造を、人は取り出し、繊維として利用してきました。

私たちがヘンプの衣に感じる丈夫さ。その源は、まず、この植物の茎にあります。

 

茎の内側にも、役割がある

繊維として利用される靭皮部分のさらに内側には、硬く木質化した部分があります。

英語では「hurd」や「shiv」と呼ばれます。

衣料用の繊維とは性質が異なりますが、建材や断熱材、敷料などに利用されています。

近年知られるようになった「ヘンプクリート」にも、この木質部分が使われます。

さらに種子は食品やオイルなどに利用されます。

衣になるのはヘンプという植物の一部分。

けれど、一本の植物を見渡してみると、それぞれの部分に異なる用途があります。

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植物から「衣料用の繊維」へ

ここからが、とても大切なところです。

収穫したヘンプの茎から、長い靭皮繊維を取り出します。

しかし、取り出したばかりの繊維が、そのまま私たちが着ている服の糸になるわけではありません。

植物の茎には、主成分となるセルロースのほか、ペクチン、ヘミセルロース、リグニン、ワックス類など、さまざまな成分が含まれています。

そこで、繊維を分離し、衣料用として扱いやすい状態へ整えていく必要があります。

その工程のひとつが、『レッティング(retting)』です。

伝統的には、収穫した茎を畑に置き、露や雨、微生物などの働きを利用する方法や、水に浸す方法などが行われてきました。

その後さらに、繊維を取り出し、精練し、紡績できる状態へ整えていきます。

そして現代では、その加工方法も一つではありません。

微生物の働きを利用する方法。
酵素を利用する方法。
機械的に処理する方法。
アルカリなどを使用する化学的な処理。

実際の繊維づくりでは、これらを組み合わせることもあります。

どこまで処理するかによって、繊維の細さややわらかさ、紡ぎやすさ、そして最終的な布の風合いも変わります。

「天然素材」という言葉について

ここで、一つお伝えしておきたいことがあります。

ヘンプは、植物から得られる天然繊維です。

けれど、

「天然繊維であること」と、
「化学的な処理を一切していないこと」は、同じではありません。

これはヘンプに限ったことではありません。

植物から採れた繊維であっても、それを衣料として使える糸や布にするまでには、さまざまな加工が行われます。

精練だけでなく、その後の漂白、染色、柔軟加工、仕上げなども含め、どのような工程を経るかは、生地によって異なります。

ですから、「ヘンプ100%」という表示は、繊維の組成がヘンプ100%であることを示すものであって、「無漂白」「無染色」「化学的な加工をしていない」という意味ではありません。

ここは、ヘンプという素材を選ぶうえで、とても大切な違いだと私たちは考えています。

同じ「ヘンプ100%」でも、布は違う

店頭でいろいろなヘンプ生地に触れると、

「これもヘンプ100%なの?」

と思うほど、風合いが違うことがあります。

粗く力強いもの。
やわらかなもの。
薄く軽やかなもの。
光沢を感じるもの。

その違いは、植物そのものだけから生まれるわけではありません。

原料となる繊維の状態、繊維を取り出す方法、精練、紡績、織り方、染色、仕上げ。

さまざまな要素が重なって、一枚の布の個性になります。

つまり私たちが触れているのは、

植物としてのヘンプと、人の技術が出会って生まれた布。

そう考えると、「ヘンプだからこういう布」とひとくくりにはできないことがわかります。

「自然のものだから」で終わらせない

ヘンプについて語るとき、

「天然だから」
「植物だから」
「環境にやさしいから」

という言葉だけで説明してしまうのは、少しもったいないように思います。

植物が育つところから、一枚の衣になるまで。

その間には、人の手があり、機械があり、技術があり、加工があります。

そして、加工には水やエネルギーを使うものもあれば、化学的な処理を伴うものもあります。

だからこそ、

何からできているのか。
そして、どうやってつくられているのか。

その両方を見ることが、素材を知ることにつながります。

ヘンプのよさを伝えるために、都合のよい部分だけを見るのではなく、その背景まで知っていく。

このシリーズでは、そんな姿勢でヘンプという素材を見ていきたいと思います。

一本の植物から、一枚の衣へ

畑に立つ一本のヘンプ。

その茎から繊維を取り出し、整え、糸を紡ぎ、布をつくる。

植物そのものを、そのまま身にまとっているわけではありません。

けれど、その衣の原点にあるのは、確かに一本の植物です。

植物 → 繊維 → 糸 → 布 → 衣。

その間にある工程まで知ることで、ヘンプという素材は、より立体的に見えてきます。

「自然素材だから」という一言では語りきれない。

そこに、ヘンプを知るおもしろさがあります。


次回
第3話「なぜ、ヘンプは丈夫なのか。」

ヘンプの茎を支えていた、細く長い繊維。

その強さは、どこから生まれるのでしょう。

次回はセルロースや繊維構造から、ヘンプの「丈夫さ」をもう少し深く見ていきます。