世界最古の染料と言われる「藍」。
世界中、多くの国で愛されていながら、とりわけ「ジャパンブルー」と称され、日本人に愛され続ける「藍」。
わたしたちを心酔させる「藍」の魅力と伝統を紐解きます。
その色は生きている。歳を重ねる染料「藍」
藍染めは他の草木染めとは一線を画します。
染料が生きているのです。
原料となるのは、収穫した藍の葉を乾燥、発酵させた「蒅(すくも)」。
蒅を甕に入れ、染液づくりがはじまります。
藍の染液をつくることを、藍建て(あいだて)と言います。
藍建てにはマニュアルがなく、すべてを左右するのが藍染め職人の感性。
日々、色や艶、匂い、温度、手触りを確認し、甘いもの(ふすま、酒)や辛いもの(石灰)を、五感で判断し加えていきます。
藍を建てることは、子どもを育てるようなもの。
一日、一日と、変化する藍を見守り、成長を支えてゆくのです。
すると、甕の中からふくふくと気泡が生まれてきます。
これが「藍の華(はな)」。
染液として育ちえた、染めどきのはじまりの合図です。
この後も藍は、甕の中で成長を重ねます。
初々しい色、若い色、壮年の色、そして老いた色。
時の経過とともに、藍の色は変化してゆくのです。
藍48色。
藍色は48の色があるといわれています。
染料の成長によって違いが生まれ、
また、重ね染めする回数によっても色が変化します。
たとえば、「濃紺」「紺」「縹(はなだ)」「納戸」「浅葱(あさぎ)」「かめのぞき」など。
日本人は藍色を果てしなく繊細に感じとっていたのです。
そして命を終えた藍は、いくら染めようとしても、染まらない。
生まれ、そして、終る。
藍の一生が見せてくれる色を、現代の私たちも感性豊かに味わいたいですね。
さらに、染め上がった色も、使い込むことで変化してゆきます。
染めたばかりは、赤味を帯びています。
光に透かして見ると、藍色の中に「赤」が見えるでしょう。
これは天然の、蒅(すくも)からつくられた本藍染の特徴。
インディゴ染めと呼ばれる、発酵させない藍染めにはない深みと言えます。
そして使い込んでゆくうちに赤味が消え、色が落ち着き、さらに時が経つと、繊維の奥まで色が入り込み、定着します。
また、洗濯を繰りかえすことで、だんだんと色があせてゆきます。
その行程も、藍染めならではの味わいです。
生きる染料で染められた藍色を、こんどは使う自分が育ててゆく。
藍染めを楽しむ醍醐味といえるでしょう。
別名「褐色(カチイロ)」。武士も好んだ藍の効能
藍色の中に「褐色(カチイロ)」があります。
鎌倉時代には、武士が藍染めの衣を「勝ち色」として身に着ける習慣がありました。
ゲン担ぎだけでなく、藍には殺菌効果や止血効果があるとされ、戦で負った傷の化膿を防ぐために、藍染めの下着を着ていたようです。
江戸時代には、薬草として、毒をもつ生き物に噛まれたときの傷の治療にも利用されていました。
そのほかにも、藍には、防虫効果、消臭効果、紫外線防止効果があります。
呉服屋や酒屋などの老舗が、暖簾(のれん)に藍染めの布を用いているのは、このためともいわれています。
藍は、見た目の美しさだけではなく、機能的にも優れた染料なのです。
日本は、ジャパンブルーに染まっていた。
藍の歴史をみてみましょう。
日本に伝来したのは、約1500年前。
奈良時代に中国から朝鮮を経て伝えられました。
平安時代までは、高貴な色として、宮廷や上流貴族が身につけていました。
奈良の正倉院には、藍染の装飾品が数多く貯蔵されています。
鎌倉時代になると武士に愛され、江戸時代には庶民に広く普及しました。
そして明治初頭。
来日した英国人科学者のロバート・ウィリアム・アトキンソンが、町が藍色に彩られている様子を「ジャパンブルー」と表現しました。
いまでも藍色をジャパンブルーと呼ぶのは、この記述がきっかけです。
ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)は、著作の中で日本の印象を「青い屋根の下の家も小さく、青い暖簾をした店も小さく、青い着物を着て笑っている人も小さいのだった」と書いています。
異国の人の目には、日本はとても「藍色」に見えたのですね。
ところが、明治後期になると、安価な合成染料が台頭し、天然本藍染の生産量が激減します。
戦時中には藍が栽培禁止となり、生産の危機が訪れたこともあります。
この伝統を途絶えさせたくない。
心ある職人たちは鼓舞しました。
おかげで、四国・徳島をはじめ、日本の各地で本藍染めの技術と美しさが伝承されています。
本麻×本藍。和の粋が掛け合わさった、美しさ。
麻専門ブランド「忠兵衛」では、ヘンプ100%藍染めショールを手がけています。
日本古来の麻、本麻=ヘンプを、北海道の職人が本藍染めしました。
おおあさ(大麻)とも呼ばれるヘンプは、藍と同じように、日本人に古くから愛され、活用されてきた植物です。
そして、藍と同じように、戦争を機に、生産を制限された経緯があります。
それでも、藍も、麻も、その美しさ、その機能性が、わたしたちの心を震わせ、現代に息を吹き返し、日本の暮らしを潤します。
麻と藍。
日本の伝統を誇り、日本人の美意識を刺激する、ふたつの植物の出会い。
本麻×本藍の、ホンモノの美しさを、ふわりと纏ってみませんか。