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草をまとう民族1 -ヘンプという存在

By 2025年8月2日No Comments

第1回|

始まりの種 ― ヘンプという存在

忠兵衛がつくる衣には、すべて「はじまり」があります。

それは糸でも、布でもなく、一本の植物 ― 麻。

人類の歴史のなかでも、最も古くから人とともに歩んできた植物のひとつです。

数千年前の縄文遺跡からも、その繊維や種子の痕跡が見つかっています。

麻は、衣としてだけでなく、縄や紙、食や住にも使われ、あらゆる生活の場面で人間の営みを支えてきました。

その命の営みは、静かでたくましいものです。

ほんの小さな種が、100日も経たないうちに、まっすぐに、迷いなく天に向かって伸びていく。

農薬や肥料に頼ることもなく、大地と太陽と水、そして風とともに育つ姿は、ただ見ているだけで、自然の美しさと力強さを教えてくれます。

荒れた土地を耕し、他の植物の成長を助けるほど、環境への再生力を持っているのです。

「衣になる前」に、こんなにも尊い命の営みがあること。

それに気づいたとき、私たちが毎日袖を通す布は、ただの「素材」ではなくなります。

今、手のひらにあるその一着の服が、どこか遠くの畑でそっと芽を出した種から始まっていること。

その「はじまりの種」への感謝を、忘れずにいたいと思います。